この場所で食を創る意味
宮城県北部の田園地帯。ササニシキやひとめぼれが生まれた米どころ。美里町北浦の小さな集落の中にある農家が作るキッシュとタルト、ときどきイタリア惣菜のお店です。
元々、飲食業に携わっていた私達夫婦が実家の農業を継ぐことになったのは、東日本大地震の一年前。震災を機に〝私達がこの場所で食を創る意味〟を問いかけています。
生産者でもある私達が自家栽培のもの、地元の名人が育てるもの、または異国の生産者が作るものなどを使ってただ純粋に自分達が食べたいものを作っています。
田舎だから、とか、こんなもんだよ仕方ない、が苦手な言葉。
地域の子供たちが将来地元を離れ美味しいものにたくさん出会うそんな時、ウチの地元にも美味しいものあったな…と思い出してもらえる様なお店でありたいと思っています。
禾食や〝Kajikiya〟。「禾」は農の基本である穀物の総称。その土地で採れたもので「食」を創る。それだけにはとどまらず、未来へと繋げまだまだ続きがあるという意味の「や」。
そんな思いを込めて禾食や〝Kajikiya〟と名付けました。
farm to table -禾食やの畑から-
キッシュとタルト
禾食やをはじめるにあたり、まず店頭に並べようと決めたのはキッシュでした。
自家製野菜を、一番美味しい時期に盛り込む。バターやチーズ、生クリームやベーコンなど、良質なものを惜しみなく。エビや帆立はゴロッと大きく、合わせる野菜は一種類だけ。それぞれが引き立て合い、型の中で料理として完成するように。
同じく型の焼成から三日がかりで作り上げるタルト。季節の果物は熟し具合やカットする大きさを調整。皮ごと使う柑橘類やプラムは皮を下向きに詰めるか、上向きに詰めるかにまでこだわっています。
イタリア惣菜
自家農園では年間約50種類の野菜を栽培。近くにはチーズやベーコンなどの丁寧な作り手もいます。
四季を通じてさまざまな食材が手に入るこの土地。
直径18センチのキッシュやタルトには収めることのできないものを、
ときどき「イタリア惣菜」として並べています。
生産者の視点から、素材のあまり知られていない旬や美味しさを提案すること。
私たちならではの「食と農」の新たな挑戦を続けていきます。
禾食やのテーブル
冷たくして美味しいもの
温め直して美味しいもの
普段の禾食やは〝テイクアウト〟という枠の中で営業しています。
でも時々、もう一歩進んでみたくなるのです。
私達の思いをお伝えしながら
食のこと、農のこと、レシピの内容までもお客様と楽しくお話しできる
ビュッフェ形式の食事会『禾食やのテーブル』
ライブの中で旬のおすすめ料理を作り、最適なタイミングと温度でテーブルへ。
いつもとは違う禾食やがそこにあります。
農業の光と影
水も空気も美味しい田舎で暮らしたい。農業をして、土に触れていたい。まだまだ続く帰農ブーム。でも「やっていける」かどうかはまた別の話。
多くのメディアが発信する世の中の注目は、グルメだったり、ヘルシーだったり、有機だとか無農薬だとか、安心安全だとか。偏り過ぎたキレイな部分ばかり。農業には、辛く、汚く、地味な作業の方がはるかに多い。そして離農者も多い。作ってくれる人がいなくなってしまったら、健康も安心安全もへったくれもない。『食と農』に対する無関心と鈍感力は、ますます自給率低下に拍車をかけてしまうだろう。
農業の光と影。伝えるため、わたしたちができること。
禾食やは全ての野菜の市場出荷をやめた。市場流通は作ったものを換金できる安心感があるが、消費者との信頼関係を築くことはできない。直販は売り切れる保障も換金できる保障もない。営業も会計管理も自分で。でも農家が社会的地位を手に入れるには、勇気をもってリスクを背負い、直販で勝負するしかないと思う。消費者に近づけば思いを伝えることもできる。光ばかりを照らす情報に惑わされず、生の声で判断してもらうためにも。
禾食やの旅はまだまだ途中だ。でも「やっぱり国産のものが食べたいね」なんて、無責任に言われないような未来をつくる一助になるため、この先もずっと歩みを止めずに進んでいきたい。